この世界の片隅に、6年以上を費やした片渕監督「もうすずさんは皆さんのもの」

こうの史代原作による映画「この世界の片隅に」の初日舞台挨拶が、本日11月12日に東京・テアトル新宿で開催された。

舞台挨拶にはすず役を務めたのん、音楽を担当したコトリンゴ、片渕須直監督が登壇した。クラウドファンディングによって、計3374人の支援者から3622万4000円の支援が集まった本作。片渕監督は「この映画を作るにあたり“1300日の記録”というコラムを書いていたんですが、ここまで来るのに2292日かかりました。4人くらいで始めたんですが、クラウドファンディングにたくさんの方が参加してくれて、スタッフやキャストの方々も含め、みんなで作る映画になったと思います。ご協力いただきありがとうございました」と感謝の思いを吐露する。

すずというキャラクターについて、「お料理のシーンとか、生活を楽しんでいる姿が印象的で。節約するためにリサーチしたり、着物をリサイクルしたり、一生懸命なんだけどすごく楽しそうなのが素敵だなと思いました」と語るのん。自分自身を「生活するっていう才能がなくて、毎日3食ごはんを食べるとか、お洗濯するとかが苦手だったんです」と評しながら、「ごはんを作ったり、お洗濯をする楽しさがわかってきて、生活をするのが楽しくなりました!」と、すずを演じたことによる変化を説明する。そんなのんの演技について片渕監督は、「作画監督は『自分たちの想像力の中にあった声が、なんでここに入っているんだろう』と言っていましたね。のんちゃんだけじゃなくて、ほかの役者さん対してもそうだったんですけど、『こんな恵まれた声の入り方はないな』とみんなで言っていました」と絶賛した。

お気に入りのシーンを聞かれたのんは、すずとその夫・周作の夫婦喧嘩のシーンを挙げる。アフレコが別撮りで行われたため、先日周作役の細谷佳正に初めて会ったというのんは、その印象を「すごくやさしくて、フレンドリーな方で楽しかったです。」と語った。

また同様の質問に対しコトリンゴは、「すずさんが絵を描いて、その絵の中でうさぎがいっぱい跳ぶシーン。最初に観たとき、すごく感激しました」、片渕監督は「すずさんが気を失って画面が真っ暗になり、火花が散る場面です。こうの史代さんの原作は、画用紙に鉛筆で描いたり、口紅で描いたり、ときどき左手で描いたりといろいろな描き方をしているんですが、アニメーションでも描き方の工夫をしようと思い、カナダのアニメ作家ノーラン・マクラレンへのオマージュをやりました」と解説する。アートアニメーション作家が集まる日本アニメーション協会で本作の感想を聞いて回ったという片渕監督は、「みんなノーラン・マクラレンには触れないで、『いやしかし、のんちゃんが(よかった)』って……。『彼らは一体どういう作家なんだ』と思いましたが(笑)」とコメントし、会場の笑いを誘った。

最後にのんは「みなさんがどうお感じになったのか気になるところですが、素晴らしい作品だと思うので、ぜひお友達やご家族におすすめしていただけたらと思います」、片渕監督は「6年以上をかけて作った映画ですが、ここからが始まりです。やっと皆さんが映画館ですずさんと会える日が来たので、よろしくお願いします。もうすずさんは皆さんのものですので、どんどん会いに来てください」とアピールした。

(c)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

(2016/11/12 16:11)

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