「海獣の子供」ワールドプレミア、総作画監督&CGI監督は“作画とCGとの境目”に自信

五十嵐大介原作による映画「海獣の子供」のワールドプレミア上映会が、本日5月19日に東京・イイノホールで開催された。

イベントには渡辺歩監督、キャラクターデザイン・総作画監督・演出の小西賢一、CGI監督の秋本賢一郎が登壇。MCはアニメーション評論家の藤津亮太が務めた。

原作の物語を、14歳の少女・琉花の体験にフォーカスを当てて描いた本作。渡辺監督は「原作マンガは魅力の塊。魅力を抽出するというよりも、すでにある魅力をいかに痩せさせずフィルムに焼き付けるかに苦心した」と述べ、「最初は欲張りなプロットを描いていたんですけど、どうしても時間が(足りない)。琉花の体験にフォーカスすれば、その部分を濃厚に描けるし、描かない余白の部分は原作に譲れる。1本の映画としてもわかりやすくなるし、そこで『いけるんじゃないか』と光明が差した」と制作当初を振り返る。

小西は原作を「線画からイメージを想起させる力が非常に高い」と評し、「アングラードの髪の毛ひとつ見ても、描き込みがハンパないですよね。(映画の作画は)セルっぽい手法でやっていますが、ペタッとさせてしまうと台無し。この作品を扱うからには実現しなきゃ、という気持ちで取り組んだ」とコメント。 一方で琉花のキャラクターデザインについては、“14歳の佇まいを再現したい”という渡辺監督の要望を受けて、原作よりも小柄さ、華奢さなどを強調しているそう。渡辺監督からはほかにも“密度を見せるためにアップを多用する”と宣言されていたそうで、小西は「目がとにかく大変だった」と作画面の苦労を明かす。

魚群、クジラなどのアニメーションを担当した秋本は、「CGはどうしても硬さが出てしまって、アニメーション特有のやわらかさ、面白みが出しにくい。最初は作画に追いついておらず、それをいかにして出すかに苦心した」と話す。特にイワシが群れをなした“イワシ玉”については、「監督や小西さんに、塊としての動きはもちろん、1匹1匹の動きにも躍動感とか生命力がないとだめだと言われていた。まず1匹の動きを作り込み、それを増やしていく作業でした」とコメント。完成した映像の出来栄えについて、小西が「作画とCGの境目が意外となくなって見えるんじゃないかな」と評価すると、秋本も「そう思ってもらえるとうれしい」と頷き、「作画と同じようなクオリティをCGにも要求してくれたのが、厳しくもあり楽しかった」と作業を振り返った。

音楽を担当した久石譲の話題では、MCの藤津が「これまでの久石譲さんと違う感じでした」と印象を述べる。渡辺監督は「久石さんは最初の話し合いの時点で原作を読み込まれて、イメージを掴んでいらっしゃっていて、『シーンや心情に寄り添って、ストーリーを煽るような音楽よりは、ちょっと客観的なもの。それだったらできる』とおっしゃっていたんです。僕も久石さんが初期に作られていたような、ミニマル・ミュージックな路線でいけたらと思っていたから、それがうまく合致した」とやり取りを明かし、「久石さんとしても挑戦的な、久しぶりというより新しい扉をもう一度開きなおすような意気込みで臨まれた」とコメント。また最初に久石から音楽のスケッチを受け取ったときのことを「フィルムに一気に色が増すような感動を覚えました」と話し、「その感動が皆さんにも伝わっているとうれしい」と客席に笑顔を見せる。

キャストへのディレクションについては、「その場でディレクションしてしまうより、彼らがどういうイメージを持ってきてくれるかを大切にした」と渡辺監督。続けて「皆さんキャラクターと同世代だったりしますから。(琉花役の)芦田(愛菜)さんなんかそのまま14歳ですし、僕が思ってた14歳の琉花よりはるかに瑞々しくてリアルでした。彼女から出てくるものに圧倒される、教えられる。収録をこなしながら、作品を捉えなおすというか、すべてのキャラクターにおいてそうでした」と話した。

物語後半の大きな盛り上がりとなる“祭り”について、渡辺監督は「おおまかな設計図はあったが、細かな処理は各セクションに任せています。それぞれのアイデアと情念みたいなものが詰まっている」と述べる。秋本はこれを受けて、「監督と小西さんは見る目こそ厳しいけど、スタッフが『こうしたらどうか』と考えて提出したものについて『そんなのいらない』とは言わない。どうしたらもっとよくなるかを一緒に考えてくれて、スタッフもクリエイティブな発想を出しやすかった」「時間はかかるけど、いいものを作るというゴールに邁進できた」とトーク。渡辺監督もそうしたやり取りの成果から、「引かれた設計図通りじゃなくて、こちらが想像していた以上のものができあがった」と自信をのぞかせた。

最後にはそれぞれが作品の見どころを語る。秋本が「密度の高い、圧倒的な映像が魅力ですが、もうひとつ重要なのは、日常に潜んでる光だとか、水が揺れるとこういうふうになるというのを、ていねいに描いているところ。この世界の秘密に触れているような感じがするので、そういうものが面白いと思ってもらえたら」と話すと、小西は「『五感に訴える』ことは、アニメーターとしては常日頃意識していること。派手さはないけど、意識しているところ。それがこの作品に合っていたと思う」と総括。渡辺監督は「大きく言うと、テーマは“命の意味と在り処”。そういったものを考えるきっかけにこの映画がなれば」と言葉を寄せた。

映画「海獣の子供」は6月7日より全国公開。中学生の少女・琉花が、ジュゴンに育てられた兄弟・海、空と出会ったことから始まる物語だ。

映画「海獣の子供」

2019年6月7日(金)全国ロードショー

スタッフ

原作:五十嵐大介「海獣の子供」(小学館 IKKICOMIX刊)
監督:渡辺歩 
音楽:久石譲
キャラクターデザイン・総作画監督・演出:小西賢一
美術監督:木村真二
CGI監督:秋本賢一郎
色彩設計:伊東美由樹
音響監督:笠松広司
プロデューサー:田中栄子
アニメーション制作:STUDIO4℃ 
製作:「海獣の子供」製作委員会 
配給:東宝映像事業部

キャスト

安海琉花:芦田愛菜
海:石橋陽彩
空:浦上晟周
アングラード:森崎ウィン
安海正明:稲垣吾郎
安海加奈子:蒼井優
先生:渡辺徹
ジム:田中泯
デデ:富司純子

(c)2019 五十嵐大介・小学館/「海獣の子供」製作委員会

(2019/5/19 21:04)

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