森脇真琴「マイメロ」「プリパラ」秘話を故郷・北海道で語る、「大島弓子さんのファン」

TVアニメ「おねがいマイメロディ」や「探偵オペラ ミルキィホームズ 」、「プリパラ」シリーズなどの監督として知られる森脇真琴のトークショーが、出身地でもある北海道で開催された「第6回 新千歳空港国際アニメーション映画祭」にて去る11月3日に行われた。

トークショーの前には同会場で「おねがいマイメロディ」シリーズの上映が行われ、朝早くから集まったファンや親子連れが、森脇自身がセレクトした4エピソードを楽しんだ。トークショーは6月に著書「現代アニメ『超』講義」を刊行した批評家・石岡良治との対談形式で進行。森脇は「おねがいマイメロディ」のウサミミ仮面Tシャツを身に着け、大きなマイメロディのぬいぐるみとともに登壇した。

最初に先ほど上映された「おねがいマイメロディ」のセレクション基準について聞かれると、森脇は「特に1・2年目はストーリーと一緒に歩んでいないと(わかりづらい)と思ったので、ギャグ作品だけをセレクトしました。サブタイトルで内容を想像するのが割と難しい作品なので、パッと絵が思い出せなかったりして、旧スタッフたちと話し合って選びました」と説明。特に「おねがい♪マイメロディ きららっ☆」からセレクトした「ありゃま! まあるくおさまっちゃった」については「当時すごくウケたんです。みんなで作りながら笑ってたし、バクがチューするところで笑いが止まらなくて(笑)。長いキャリアの中で、プロである録音スタッフが我慢できずに笑っちゃってリテイクを録ったということは、本当に初めてのことだったので、よく覚えています」と語った。

「おねがいマイメロディ」では、画面の向こうの視聴者に向けて話しかけてくるはりねずみくんというキャラクターが“ころり”と転がることで、作中で魔法にかかった人々がその記憶を消されるという設定がある。石岡がこれは誰の発案なのか尋ねると、森脇は「“ころり”は私ですね。ころりと忘れることが自分は多いので」と答え、「話しかけてくるのは……あっ、私だ(笑)。1話のコンテでそういうふうにして、メタなところにいるキャラクターになりました」と述懐。石岡がそうした設定をはじめ、「マイメロ」には不穏な要素が混ざっていると指摘すると、森脇は「メルヘンって割と怖い要素が入っているものですから、混ざりやすいんだと思います。でも今日観ていて、ギャグと怖さと『かわいい』が入っている作品は、そういえば当時はなかったのかなって思いました」と気付きを語った。一方で「おねがいマイメロディ」のキャラクター・真菜が“かわいいものが苦手”という設定であることについて、観客から着想を尋ねられると、森脇は「作品を作るとき、主人公を好きなキャラだけじゃなくて、嫌いなキャラを作るんです」と答え、「『マイメロ』では白山くんが“好き”で、真菜ちゃんが“嫌い”。真菜ちゃんには私の属性も入っているかもしれません。かわいいものを見るといじめたくなってしまうところがあるので(笑)」と明かした。

さらに作中でマイメロが「おねがい」を使うタイミングについて、唐突ながらも絶妙であると石岡が評すると、森脇は「マイメロの話のときはマイメロに、クロミの話のときはクロミになりきって作っているから、そうするとああなるんです」と自然なものであると言い、「強引さも私、好きなんです。強引と唐突さ、強制力」と話す。また「おねがいマイメロディ ~くるくるシャッフル!~」から登場する、柊恵一扮するウサミミ仮面について話題が及ぶと「柊はすごくスペックが強いから、どんなことをやってもいじめの構図にならないんです。怒ったら2倍返し3倍返し(するキャラクター)なので、そういう嫌がらせは心おきなくできました(笑)」と話し、「ウサミミ仮面の初登場回は、自分が作り手ですごく残念でした。何も知らずに見てたらすごい笑えたんじゃないかと。あれは知らない人として見たかったです」と悔しがる。そして「おねがいマイメロディ」について、「『プリパラ』でも『(魔入りました!)入間くん』でも一部スタッフが重なっているんですが、あんなふうに熱い気持ちでまたアニメを作りたい、と話しています」と思い入れを語った。

そんな「マイメロ」をきっかけに、以降のサンリオキャラクターのアニメが自由な作風になったのではないか、と分析する石岡。森脇は「最初に『マイメロ』をやることになったとき、会議で『こんなふうにしたい』ってアイデアを口から出まかせで言っていったら、プロデューサー陣がみんなシーンとして……(笑)、でもニヤニヤ笑ってるんですよ。『マイメロに何をやらせるつもりなんだ、この人は』ってニヤニヤだったんだと個人的に思います」と当時を振り返り、「でも懐の深いサンリオ様のおかげで本当に自由にやらせてもらって。そのときがやがや笑いながら作っていたチームやプロデューサーが、そのまま『ジュエルペット』にいったので、私が抜けたあとも遺伝子が入っているかもしれません」とコメントした。

石岡は森脇作品の魅力として、主人公ではないキャラクターやちょっとした脇役が活躍している点を挙げる。森脇は「結果的に群像ものにはなっているかもしれません」と切り出し、「どうしてもキャラクターすべてに感情移入して、愛情を持ってしまうので、結果的にそうなっている気がします。それは『プリパラ』でも『ミルキィ』でも同じです」と回答。続けて「『プリパラ』が始まったとき、(シナリオ)ライターの皆さんからモブのキャラクターを『A子』『C男』みたいに書かれてくるのがちょっと違うんじゃないかなと思って、必ず苗字と名前を付けてくださいってお願いしたんです。そしたら実務としてすごく大変になってきたので(笑)、だんだん『モブA』とかになってしまったんですけど、自分の中ではちゃんと苗字も名前もある子たちだと思っています。『プリパラ』の栄子ちゃんはその名残ですね」と、キャラクターを大事にしていることが伝わるエピソードを披露した。

後半では「プリパラ」の個性あふれるアイドルたちについて森脇が語る場面も。放送当時も話題を呼んだちゃん子のダンスシーンについては「私、世に言う“デブ専”なんですよ。太ったキャラクターが好きなんです。だからちゃん子がああいう造形になったときに、『これは絶対踊ってほしい』と思って、そこに渡辺直美さんのイメージが重なった」と話し、奇抜なキャラクターと言われるあじみについても「私の魂のキャラですね。本当に自然に描けるし、楽しい」と語る。レオナについては「『プリパラ』のキャラクターの中で一番かわいい」とコメントし、また観客からふわりの誕生経緯を聞かれると、「『プリパラ』の場合は、シンソフィアのデザイナーがいて、まず筐体のためにキャラデザインを作るんです。あとはタカラトミーアーツにパロディの得意な人がいて(笑)、(『アルプスの少女ハイジ』の)ハイジの属性が加わり、森ガールみたいな状態になってからこちらにきて、私がふわりって名前をつけました」と解説した。

現在は西修原作のアニメ「魔入りました!入間くん」で監督を務めている森脇。石岡が「特にクララが出てきたときに『ハマっている』と思って。原作にないちょこちょこした動きが足されて、やりたい放題でイキイキしている」と言い、その采配について尋ねると、「ああいうキャラを描くのが好きなんです。コンテをチェックするときに、セリフも動きも必ず付け足しています」と明かした。また石岡は最後に森脇が脚本を手がける際に“大島のぞむ”というペンネームを使っていることに触れ、「森脇監督の作品に、どこか大島弓子のマンガと共通するものを感じているんです」と影響を尋ねる。すると森脇は「大島弓子さんは中学生くらいの頃からずっと読んでいたので、意識しなくても自分の血肉になっていると思います。あとアニメでは『トムとジェリー』が大好きで、『プリパラ』のウサチャが自分を海苔巻きにするエピソードなんかは、完全に『トムとジェリー』が出てきた感じです。ほかにもいろいろなものから影響を受けています」と自身のルーツの一部を明かした。

最後に森脇は「いろんなものが詰まって遺伝子になっていて、そういう大先輩の方々を尊敬しますし、その遺伝子を継いでいけたら、それはとてもうれしいことだと思います」とコメント。そして「今日は早い時間から集まってくださってありがとうございました。東京に帰ってスタッフと共有したいと思います」と観客に呼びかけ、トークショーを締めくくった。

(2019/11/8 16:02)